急性心筋梗塞

急性心筋梗塞は見逃した場合に訴訟になることがとても多い疾患です。

しかも、非典型的な症状で患者さんが来院することが典型的である(Atypical is typical!)と心得なければならないほどに非典型例が当たり前にやってきます。

 

AMIの52-67%は非典型例です。

DMのある方の場合、40%は胸痛を伴いません。

無痛性の心筋梗塞として糖尿病は有名ですが、無痛性心筋梗塞全体でみると糖尿病の割合は3割程度であることも覚えておきます。

つまり、糖尿病がなくて胸痛がないことは心筋梗塞を否定する根拠にはならないということです。

85歳以上の高齢者は非典型的な症状である可能性が最も高いです。

65歳以上の高齢者は51%が非典型例であるといわれています。

45歳以下では喫煙歴とOMIの存在がリスクファクターです。

20歳代などでは川崎病の既往に注意します。

女性では胸痛を伴うのは29%のみで、息切れが58%、倦怠感が54%です。

 

特に注意が必要なのは高齢者、女性、糖尿病患者です。これらの方々では急性心筋梗塞を見逃しやすいので十分に注意します。

 

診察の時、女性はACSに比較的なりにくいと考えてしまいます。しかも心筋梗塞の女性の43%は胸痛がありません。

なので胸痛以外の症状として、嘔気・嘔吐、息切れ(58%)、倦怠感(53%)、放散痛に注意します。

胸痛のみに注目していては見逃してしまうのです。

 

また85歳以上では胸痛よりも息切れの症状に注意が必要です。

85歳以上の方ではAMIの時に最も多くみられる症状は息切れだからです。

 

受診患者数が多いERでは心筋梗塞の見逃しが比較的少ないようです。

受診患者数が多いと非典型例の心筋梗塞患者をたくさんみるため、

患者さんを帰宅させることに慎重になることが原因のようです。

 

胸痛(ACS)のPitfalls

胸痛のパターンからは心筋梗塞を除外することはできません。

ニトログリセリンや制酸薬が効果があるかどうかからも除外はできません。

参考に種々の症状のLRを以下に示します。

放散痛 LR7.1

冷や汗 LR4.6

圧迫感 LR1.7

鋭い・刺すような痛み LR0.41

呼吸による変動 LR0.22

体位による変動 LR0.13

ちなみに痛みがない心筋梗塞は22~35%もあります。

 

手のひらサイズや握り拳サイズの胸痛は心臓由来が多いといわれていますが、

胸痛の範囲で心筋梗塞を鑑別することはできるのでしょうか?

以下に代表的な胸痛の範囲とArm signについて、感度、特異度を示します。

Levine(拳)感度9%、特異度84%

掌 感度38%、特異度67%

Arm sign(左手→右腕)感度16%、特異度78%

痛みの場所を指先でさせる場合は心臓以外の可能性が高くなりますが、

それでも心筋梗塞を否定する根拠にはなりません。

なぜなら痛みの場所を指先でさせる方でも2%は心筋梗塞であるという報告があるからです。

 

さらに痛みの強さでも心筋梗塞を除外することはできません。

痛みの強さと心筋梗塞かどうかは無関係なのです。

 

他に、年齢も除外のためには役に立ちません。

若年者でも心筋梗塞は認められます。

おまけですが、若年層でみられる血管炎から心筋梗塞になる薬物としてコカインが有名です。

その他、若年層でみられる心筋梗塞の要因に川崎病の既往があります。

 

胸痛の持続時間も心筋梗塞の除外には使えません。

心筋梗塞の胸痛は1位時間以上続くとは限りません。

 

AMIを疑う際の随伴症状として重要なものをNERDとして覚えましょう。

“NERD”

Nause嘔気

Vomiting嘔吐

Exertional Chest Pain 労作時の胸痛

Radiation

Diaphoresis

 

30㎝の法則

心臓を中心とする30㎝以内の範囲のどこか(胸、胃、両肩、のど、歯、背中)に痛みがあり、冷や汗をかいている場合には心筋梗塞を疑い心電図をとる必要があります。

胃痛では下壁梗塞を疑います。心電図でⅡ、Ⅲ、aVfのST上昇に注意します。

 

無痛性心筋梗塞の糖尿病以外のリスクファクターに高齢女性があります。

心筋梗塞の女性の43%は胸痛がありません。嘔気・嘔吐、息切れ(58%)、倦怠感(53%)、放散痛に注意します。

初回心電図で心筋梗塞と診断できるのは約30%のみです。

症状が続いている患者の場合は初回心電図で異常がなくても心電図と血液検査でフォローアップをしなければなりません

 

85歳以上の場合には、心筋梗塞の症状として最も多いのは息切れです。胸痛よりも息切れの方が頻度が多いです。

 

AMIのリスクファクターとして信頼性が高いものに、狭心症や心筋梗塞の既往があります。LR2.3で唯一重要です。

喫煙、高血圧、糖尿病は将来冠動脈疾患になるリスクファクターであるといわれていますが、

心筋梗塞の診断に有用なファクターであるという明らかな証拠はありません。

 

AMIのECGのPitfalls

初回に行うECGの感度は13%~69%しかありません。

なので経時的変化を追わなければなりません。過去も未来も心電図変化を必ず確認します。

ミラーイメージがあればAMIといえます。

ミラーイメージとは反対側の誘導でST低下が認められることです。

 

ミラーイメージとは?

反対側の誘導でST低下となることです。

 

心筋酵素の有用性は?

心筋酵素は感度50%、特異度85%です。発症1時間以内は感度10~45%、発症8時間以上であれば感度90%以上です。

発症後3~4時間で感度96%、8~12時間で感度98%です。残りの2%は最後まで心筋酵素が陽性となりません。

1回血液検査を行い陰性でも心筋梗塞を否定することはできません。

低リスク群+トロポニン陰性であればAMIの可能性は2.3%です。30日以内に死亡するのは1%です。

 

心エコーの有用性について

急性心筋梗塞に関して心エコー検査は感度93%、特異度66%です。

 

Vancouver chest pain rule

初回の心電図で異常がなく、虚血性心疾患の既往がない場合には、40歳以下であれば帰宅可能です。

40歳以上の場合、それっぽくない胸痛で初回のCK-MBが3.0µg/L以下であれば帰宅可能です。CK-MBが3.0µg/L以上の場合には2時間後の心電図で変化がなく、CK-MBの上昇がなく、トロポニンTが陰性であれば帰宅可能です。

それでも95%の感度ですので、5%は見逃してしまいます。